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「人文学は役に立つのか」
現代における人文学の課題

第4回 人文学と対話(2026)

🎯

この授業の目標

現代の人文学における課題について問いを共有し、互いに学び合う

🎬

事前学習動画(再掲)

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【第4回事前学習動画】「現代における人文学の課題(前編)」

【第4回事前学習動画】「現代における人文学の課題」(後編)

🗣️

対話ワーク:「言いっぱなし聞きっぱなし」

今回の対話ワークでは「言いっぱなし聞きっぱなし」の形式で対話を行います。

📄

配布資料

授業の流れ

セッションのタイムライン

1
ミニワーク

はじめのミニワーク「発声練習」

質問:「あなたの新年の抱負は何ですか?」

2
動画

講義動画の視聴

「人文学は役に立つのか:現代における人文学の課題」

3

質問タイム・模範演技

4
対話ワーク

対話ワーク:「言いっぱなし聞きっぱなし」

名前を言い、チャットに問いを書き込み、理由を説明する(各4-5分)

5

ふりかえりフォームの記入

ふりかえりフォームを提出する
📚

次回の準備

第5回授業へ向けた準備(授業前日まで)

本事前学習動画を視聴したうえで、「人文学と生成AI」というテーマについて、あなたが関心のある問いを立ててください

【第5回事前学習動画】「人文学と生成AI」

動画が表示されない場合はこちら

第5回のテーマ:人文学と生成AI

本動画では、「生成AI(Generative AI)という技術が人文学研究にどのような影響を与えうるか」や「生成AIが社会に浸透することにより、人文学研究にどのような変化が起きるか」に焦点を当てます。

Q1. 生成AIとは何か? 人文学研究の「助手」になりうるか?

生成AIの基礎

「生成AI(ジェネレーティブAI)」とは、大規模なデータから学習し、新しいコンテンツ(文章・画像・音声・コードなど)を自律的に作り出せるAI技術のことです (Gartner, 2025)。代表例としてOpenAI社の対話型モデル ChatGPT が挙げられます。ChatGPTは巨大な言語モデル(GPTシリーズ)に基づき、人間のような文章を生成できるAIチャットボットです。

さらに近年はマルチモーダル(多様な様式)対応の生成AIも登場しています (Google Cloud, 2026)。テキストだけでなく画像・音声・動画・プログラミングコードといった複数のモダリティを一つのモデルで処理できるのが特徴です。

人文学研究における基本的立場

人文学の研究者・院生にとって、研究における創造性や洞察の源泉を人間自身に置くことは極めて重要です。AIは膨大な既存データからパターンを学習した道具に過ぎず、自ら問題意識をもって歴史や文化を解釈することはできません (ICMJE, 2023)。実際、生成AIの活用が広がる中で「AIに頼りすぎるとオリジナリティや創造性が損なわれるのではないか」という懸念も指摘されています (Chayka, 2025)。「AIはあくまで補助的なツールであり、研究の舵取り役は人間である」という基本姿勢を明確にしておくことが重要です。

活用可能な場面

  • アイデア発想支援:キーワードや関心テーマを与えて対話することで、新たな観点や関連アイデアのヒントが得られる
  • 文章の要約・下調べ:大量の文献やテキスト資料の要点をAIに要約させ、概略を掴んだ上で本読みをする
  • 検索クエリの設計:未知の分野で適切な文献検索キーワードを提案してもらう
  • プログラミングやコード生成:データ分析やテキストマイニング用のコードの自動生成やデバッグ支援
  • 図表・ビジュアライゼーション:概念図のアイデア出しや、研究発表のビジュアル素材作成のヒント
  • 申請書等の文章作成支援:学振申請書の場面では、概要案作成、タイトル案作成、文章案作成、本文添削などに活用できるとされている (吉田, 2026)

注意が必要な点

  • 誤情報と幻覚(ハルシネーション):もっともらしいが事実に反する内容を作り出すことがある (Welborn, 2023)。必ず裏取り(ファクトチェック)が必要
  • 出典の不透明さ:AIの回答には参照した元情報(出典)が明示されない (ICMJE, 2023)。学術利用では出典不明瞭な生成文は安易に使用すべきでない
  • バイアスや偏り:訓練データに含まれる偏見やバイアスも学習してしまう (Chayka, 2025)。一方的な観点に偏った回答が出ることがある
  • プライバシーと機密性:未公開のデータや個人情報をAIに入力することには情報漏えいのリスクがある (Elsevier, 2023)

具体的なプロンプト(指示文)のテンプレート

人文学研究や、とくに大きなハードルとなる学振(日本学術振興会 特別研究員)申請書の作成において、生成AIを壁打ち相手やアシスタントとして活用するのは非常に効果的です。
以下の [ ] の部分をご自身の状況に合わせて書き換えて試してみてください。

1. 日々の研究・調査を加速させるプロンプト

人文学特有の「問いを深める」作業や、大量の文献処理をサポートします。

💡 アイデア発想支援

プロンプト例:

私は現在、人文学の分野で「[研究テーマ:例:近代日本の都市空間と文学]」について研究しています。現在は主に「[現在の視点:例:特定の作家の作品分析]」という視点からアプローチしていますが、これとは異なる学際的なアプローチ(社会学、地理学、メディア論など)や、見落としがちな新しい観点を5つ提案してください。

📝 文章の要約・下調べ

プロンプト例:

以下のテキストは、これから読もうとしている文献([文献のタイトル等])の一部です。この内容を、①主要な問題提起、②根拠となるデータや事例、③結論の3点に整理して、それぞれ200字程度で要約してください。

[ここにテキストを貼り付け]

🔍 検索クエリの設計

プロンプト例:

「[研究のキーワード:例:民俗学、通過儀礼、現代社会]」に関する先行研究を、CiNiiやGoogle Scholarなどの学術データベースで検索したいです。網羅的に検索できるよう、類義語や関連語を組み合わせた、日本語と英語の検索キーワード(論理演算子 AND/OR を用いたクエリ)のパターンを5つ提案してください。

💻 プログラミングやコード生成(テキストマイニング等)

プロンプト例:

人文学のテキスト分析のためにPythonを使いたいです。初心者です。「[テキストデータの種類:例:青空文庫のテキストファイル]」を読み込み、MeCabを使って形態素解析を行い、名詞と動詞の頻出単語トップ20を抽出して棒グラフ(matplotlib使用)で表示するコードを書いてください。各コードの意味がわかるように、丁寧なコメントを入れてください。

📊 図表・ビジュアライゼーション

プロンプト例:

研究発表のスライド用に、「[概念A]」と「[概念B]」の相互関係を示す図解を作りたいです。これら2つの概念の「共通する背景」「対立する要素」「相互に与える影響」を視覚的にわかりやすく表現するための、図(ベン図、フローチャート、マトリックスなど)の構成アイデアを3つ提案してください。

2. 学振申請書作成に特化したプロンプト (吉田, 2026)

学振の審査委員は「あなたの専門分野のど真ん中の人」とは限りません。「専門外の優秀な研究者」に伝わる客観性と論理性を整えるためにAIを活用するのがコツです。

📌 タイトル案作成

プロンプト例:

以下の研究概要を元に、学振(DC)の申請書用の研究課題名(タイトル)の案を10個出力してください。
専門外の審査委員にも「①何を対象とするか」「②どんな新しい視点があるか」が一目で伝わるよう、簡潔で惹きつけられる表現を意識してください。堅い表現から、少しキャッチーな表現まで幅広く出してください。

[ここに研究概要のメモを貼り付け]

📄 概要案(サマリー)作成

プロンプト例:

以下の箇条書きのメモを元に、学振申請書の冒頭に配置する「概要(サマリー)」の文章案を約400字で作成してください。
構成は「①背景と学術的問い」「②本研究の目的と手法」「③期待される成果と意義」の順で、論理の飛躍がないように繋いでください。専門用語はなるべく噛み砕いてください。

[ここに背景・手法・意義などのメモを貼り付け]

✍️ 文章案作成(着想に至った経緯など)

プロンプト例:

学振申請書の「本研究の着想に至った経緯」の項目を執筆しています。以下の私のこれまでの経験と、そこから生まれた問題意識のメモを繋ぎ合わせて、説得力のある文章案(約600字)を作成してください。
研究への熱意が伝わるトーンにしつつも、主観的になりすぎず、客観的で論理的な文章にしてください。

[ここにこれまでの研究や問題意識のメモを貼り付け]

🧐 本文添削(推敲・ブラッシュアップ)

プロンプト例:

以下の学振申請書のドラフト文章([項目名:例:研究目的])を添削してください。以下の3つの視点から厳しくチェックをお願いします。

1. 他の人文学分野の審査委員が読んでも意味が通じるか(難解な専門用語の指摘)。
2. 論理の飛躍や、文脈のねじれがないか。
3. 「〜と思われる」「〜かもしれない」といった弱気な表現を削り、より自信に満ちた説得力のある表現に直せるか。

修正案の提示とあわせて、なぜそのように修正したかの理由も教えてください。

[ここにドラフト文章を貼り付け]

AI利用の注意点

  • 一次資料の解釈はAIに委ねない:歴史的文書や文学作品の深い読解、ニュアンスの解釈は研究者自身のコアな仕事です。AIは「事実をもっともらしく捏造する(ハルシネーション)」ことがあるため、AIの解釈をそのまま鵜呑みにしてはいけません。
  • 機密情報や未発表データの入力に注意:インタビューの文字起こしデータ(個人情報を含むもの)や、発表前の極めて重要な独自データは、学習に使用されない設定にするか、入力自体を控えるなどの配慮が必要です。
  • 学振や大学のAI利用ポリシーの遵守:申請書やレポートを「AIに丸投げ」してそのまま提出することは、研究倫理に反する場合があります。あくまで「壁打ち相手」「推敲のアシスタント」として使い、最終的な執筆と責任は自分が負うことを徹底してください。

人文学研究に実際に使うことを想像しながら、生成AIという科学技術が社会に浸透することの良し悪しについて考えてみましょう! 実際に触ってみることをお勧めします。

Q2. 生成AIに頼ると、人間の「考える力」は失われるのか?

便利だからといって何でもAI任せにしていると、研究者自身の思考力や文章力の鍛錬機会が失われてしまう恐れがあります。実際、MITの実験ではChatGPTを使ってエッセイを書いた学生は脳の認知的な働きが低下し、自分が書いた内容を後で思い出せない割合が顕著に高まったと報告されています (Kosmyna et al., 2025)。

AIを信頼して作業を任せるほど、自分自身では深く考えなくなり、特に時間に追われる状況ではAIの出力を鵜呑みにしがちになるという調査結果もあります。長期的に見ると、AIの提案をそのまま受け入れる悪循環に陥る可能性があります。

利用指針:こう使おう

  • アイデアの起点や構想をAIに丸投げしない (Elsevier, 2023):研究テーマの設定や論文構成の骨子策定といったクリエイティブな部分は自分で考える
  • 人間による批判的チェックを必ず挟む (Elsevier, 2023; ICMJE, 2023):AIの出力は一見もっともらしくても誤りを含む可能性が常にある。事実関係を確認・修正すること
  • AIの提案をそのまま受け入れない:「本当にそうだろうか?」「別の視点はないか?」と自問し、AIの回答を材料に思考を発展させる意識が大切

「使うルール」の設計

  • 使う場面・使わない場面を明確に線引きする:例えば先行研究のレビューは自分で書く、単純な形式整えはAIに任せる、など
  • プロンプトと出力の記録 (AWS, 2026):AIに何を入力し何を得たかを逐一記録し、後から検証できる状態にしておく
  • 倫理面・公開面での透明性:研究発表や論文執筆にAIを利用した場合、その事実を可能な限りオープンにする

Q3. 学術研究でAIを使うとき、何に気をつけるべきか?

国際的な倫理動向・出版方針

2023年以降、各国の学会や主要学術誌が次々とAI利用に関するガイドラインを明文化しています。主要な方針をまとめると、概ね以下の4つの原則に集約されます:

1. AIは著者ではない

Nature/Scienceをはじめ主要誌が共通して「AIに著者資格は与えない」としている (Cerutti, 2023; Nature, 2023b)

2. 人間が責任を負う

文章の責任は人間が負い、AIの使用は申告する (ICMJE, 2023)

3. 利用は開示する

どのような目的でAI技術を使ったかを謝辞やメソッドに記述すべき (Elsevier, 2023)

4. 画像等への使用は慎重に

AI生成画像の掲載は原則禁止または明示ラベルが必要とされる傾向 (Nature, 2023a)

著作権と法的な位置づけ

生成AIによる成果物の著作権については各国で議論が進んでいます。多くの国・地域では「著作物として保護されるには人間の創作性が必要」という立場を取っており、AI単独で作った文章や画像は原則として著作権が認められないとの判断が出ています。また、AIが学習した元データに他者の著作物が含まれている可能性もあり、AIの出力がその盗用になっていないか注意する必要があります (ICMJE, 2023; Elsevier, 2023)。

結論:知的主体性を守るために

生成AI時代においても、人文学研究の価値は決して揺らぎません。それは、人間が自らの知性で過去と向き合い、文化を解釈し、新たな意味を紡ぎ出す営みだからです。AIという強力な道具を得た今だからこそ、私たちは改めて人間の創造力と責任の重みを自覚し、知的主体性を守り抜く決意を固める必要があります。

具体的には、単純作業や下調べではAIの力を借りつつ、研究の核心たる着想・解釈は自らの頭で行うという役割分担を明確にしましょう。AIから得られたものは必ず吟味し、必要ならば修正・補強して、最終的なアウトプットはあくまで自分の言葉と判断でまとめ上げるのです (Elsevier, 2023)。

さいごに

第5回授業へ向けた準備(授業前日まで)

本事前学習動画を視聴したうえで、「人文学と生成AI」というテーマについて、あなたが関心のある問いを立ててください。

第5回授業(授業当日)

グループのメンバーそれぞれが立ててきた問いを共有するところから、グループワークが始まります。

「人文学と対話」における協働の探究のための「問い」の要件

  1. 参加しているコミュニティ内(グループのメンバー)で一緒に考えられる問いであること
  2. 自分の関心(専門分野や経験など)に根付いた問いであること

参考文献

次の授業

テクノロジー

第5回 人文学と生成AI